大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1005号 判決 1967年12月08日
控訴人 森口鉄夫
右訴訟代理人弁護士 西畑肇
被控訴人 広川進
右訴訟代理人弁護士 上坂明
同 葛城健二
同 滝井朋子
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
事実
<全部省略>
理由
一、甲第一号証の控訴人の記名印に対し押捺された印影が、同人の印顆により顕出されたものであることは当事者間に争がないから、右印影は反証のない限り控訴人の意思に基いて顕出されたものと推定すべく、従って又右甲第一号証その余の控訴人関係部分も反証なき限り真正に成立したものと推定される。そこで右反証の有無について判断すると、<証拠省略>を対照するときは、本件手形は控訴人方に出入しその記名印、支払地振出地を示す大阪市、支払場所を示す三和信用金庫鶴橋支店なるゴム印及び控訴人の印鑑の保管場所を知っていた訴外西原実が商売に行詰りを生じたため、その資金に充てる目的で控訴人不在中擅に之等ゴム印及び印鑑を冒用して作成し、金融業を営む被控訴人方で割引を依頼したことが認められ、甲第一号証の控訴人名下の印影は控訴人の意思に基いて顕出されたものであるとの冒頭記載の推定は覆されたものと云わねばならない。原審並びに当審での被控訴本人尋問の結果を以てしても右甲第一号証の印影が控訴人の意思に基いたものであると認めることはできない。
二、してみれば本件手形は偽造手形と認めざるを得ないが、被控訴人は本件手形が偽造にかかるものであるとしても、控訴人より振出行為につき追認があったから控訴人は支払義務は免れないと主張する。
成る程手形の振出行為が偽造である場合にも、無権代理人により直接本人の記名捺印がなされた場合と同視し得るが如き特段の事情がある場合には、遡及的追認を認め得ることを否定するものではないが、本件の場合にあっては被控訴人主張の追認があったとする当審並びに原審での被控訴本人尋問の結果は、之を当審での控訴本人尋問の結果と対比するときはたやすく措信し難い。のみならず本件の場合が前説示の遡及的追認を認め得る特段の事情のある場合にも該当するものとは認められない。被控訴人の主張は採用し難い。
三、仍て被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから之を取消し被控訴人の請求を棄却することとし、<以下省略>
(裁判長裁判官 岩口守夫 裁判官 松浦豊久 青木敏行)